Taro
Tsurumi
【パレスチナ/イスラエル】 ウェブサイト管理者の専門の関係上,シオニズム関連が中心です。
<雑誌>『日本中東学会年報』,『ユダヤ・イスラエル研究』,Israeli Studies, Journal of Palestine Studies, International Journal of Middle East Studies, Middle Eastern Studies, The Middle East Journal, Jewish Social Studies, Jewish History, Studies in Contemporary Jewry, The Journal of Israeli History , Israel Affairsなどが有名です。若干マイナーになりますが、ヘブライ大学から出されているJews in Eastern Europeにも関連論文が載ることがあります。ヘブライ語では、ユダヤ史・シオニズム史に関するציון、シオニズム史に関するהציונות、現代イスラエル史も含むעיונים בתקומת ישראל、テルアビブ大ディアスポラ研究所が出しているポーランド・ユダヤ史に関するגלעד、現在は刊行されていないものとしては、ロシア・ユダヤ史・シオニズム史の雑誌העברがあります。
<入門用>
1. James L. Gelvin, The Israel-Palestine Conflict: One Hundred Years of War, New York: Cambridge UP, 2005
イスラエル・パレスチナ紛争の歴史をバランスよく概観しています。
2. Gregory Harms with Todd M. Ferry, The Palestine-Israel Conflict: A Basic Introduction, 2nd edn., New York: Pluto, 2008.
薄い本ですが、各章の要点や論争となってることをイタリックで提示したうえで本論に入る形で、よく整理されていてわかりやすいです。
3. 立山良司「パレスチナ問題」同編『中東』第3版、自由国民社、2002.
政治史を手際よく概観した論考です。
4. 縫田(ぬいた)清二「イスラエルとシオニズム」前嶋信次他編『オリエント史講座第6巻 アラブとイスラエル』学生社,1986年
シオニズムについて短い頁数の中で非常にコンパクトにかつバランスよく概観しています。しっかりTh・ヘルツル以前の状況について言及している点や「ウガンダ」論争に言及している点に好感が持てます。
5. 立山良司『揺れるユダヤ人国家―ポスト・シオニズム』文藝春秋(文春新書),2000年
新書なので入門用としましたが,現代イスラエル社会に関する非常に興味深い論点を読みやすく解説しています。
6. 臼杵陽『中東和平への道』山川出版社(世界史リブレット52)、1999年.
主に第1次大戦からオスロ合意までの時期に関する、政治の世界を中心とした、シオニスト/イスラエル・パレスチナ/アラブ関係の概説書です。政治の流れをつかむのにもってこいです。
7. Michael Brenner, Zionism: A Brief History, Markus Wiener, 2003.
シオニズム史に関する概説書です。第2章の章題"An International Nationalism"はシオニズムのある側面を言いえており、時々使わせていただいています。
8. David Engel, Zionism, Harlow: Pearson Education, 2009.
簡潔に、多岐にわたる論点を読みやすくまとめてある入門書です。各章末に推奨文献も説明付きで載っていて便利です。著者がディアスポラ地域(特にポーランド)に関するユダヤ現代史を先行することもあってか、初期の段階から現在に至るまで、世界シオニスト機構を含めて、ディアスポラのユダヤ人・シオニストとの関係を十分に盛り込んでいる点が特徴的です。党派性もこの手の本の中ではあまり感じられない方だと思います。
<その先>
イ)シオニズムの歴史・思想に関するもの
◆シオニズムそのものに関するもの
1. Arthur Herzberg (ed.), The Zionist Idea: A Historical Analysis and Reader, Philadelphia: The Jewish Publication Society, 1959.
シオニズム思想に関する最も有名なアンソロジーです。37人のシオニスト思想家の略歴と、それぞれいくつかの代表的著作の中心的部分を英訳したものを載せており、手早くシオニズム思想について原典で知ることができます。
2. Gideon Shimoni, Zionist Ideology, Hanover: UP of New England, 1995
シオニズム思想を主要な潮流に分けて詳しく概説した本です。なかなかのボリュームですが,既存の概説書の中では最も体系的でバランスが取れており,これを読めばシオニズム思想の重要な部分はかなり理解できるのではないかと思います。基本的にイスラエル建国(1948年)までの時期を扱っています。
3. Shmuel Almog, Zionism and History: The Rise of a New Jewish Consciousness, New York: St. Martin’s Press, 1987
これも詳細な概説書ですが,1.よりも社会学的な視点で書かれているように思います。また,東欧シオニズムと西欧シオニズムの対立という論点も書かれており,多少違った角度からシオニズムを見ることができるでしょう。
4. ウォルター・ラカー『ユダヤ人問題とシオニズムの歴史』(新新版)第三書館,1994年(原著1972年)
原書の題名はA History of Zionism: From the French Revolution to the Establishment of the State of Israelで,シオニズムの通史です。日本語訳でおよそ1000頁にも及ぶ大部ですが,様々な観点(アラブ問題なども含めて)からシオニズムの歴史が書かれており,バランスも取れています。
5. Anita Shapira, Land and Power: The Zionist Resort to Force, 1881-1948, Oxford: Oxford UP, 1992.
シオニズムにおける防衛の精神を中心に、建国前の時期に関して詳細に検証したものです。ポグロムなどに対する防衛など移民前のシオニストの経験、とりわけ、それが無抵抗な伝統的ユダヤ共同体指導層に対する苛立ちや反発を伴ってイデオロギー化していったものが、パレスチナの地でより発展した形で表出したことが窺えます。アラブ人の反シオニズムの暴力がロシア帝国などでの反ユダヤ主義と重ねて見られてしまった不幸などを垣間見ることもできます。
6. Michael Berkowitz, Zionist Culture and West European Jewry Before the First World War, Chapel Hill: The Univ. of North Carolina Press, 1993.
初期の西欧シオニズムに関しては本書がよいです(シオニズムを猫も杓子も一緒にしないで、西欧に限って分析しているところなど)。ドイツ語圏的な問題関心とシオニズムが並行していた側面などが明らかとなっています。
7. Yosef Katz, "Paths of Zionist Political Action in Turkey, 1882-1914: The Plan for Jewish Settlement in Turkey in the Young Turks Era," International Journal of Turkish Studies, 4(1), 1987.
そのオスマン帝国とシオニストの交渉過程についてはこちらを参照。オスマン帝国としてはブルガリア独立などの二の舞は御免だということで、パレスチナへのまとまったユダヤ移民には最後まで反対だったわけですが、オスマン帝国全土への分散した移民ならOKするなど、シオニストの交渉は全く成果がなかったわけではありませんでした(ただ、オスマン帝国全土への分散的な移民は、たとえ手段であったとしてもシオニズムの本来の目的と離れすぎているし、ユダヤ民衆がついてこないだろうということでシオニストの中でもほとんど却下だったわけですが)。
8. Mim Kemal Oke, "The Ottoman Empire, Zionism, and the Question of Palestine (1880-1908),"International Journal of Middle East Studies, 14(3), 1982.
より国際政治的な視点のものとしてはこちらを参照。パレスチナが国際政治的にも、現在と比べるとはるかに低い程度にですが、様々な思惑が錯綜する場所だったことが分かります。
9. Jonathan Frankel, Prophecy and Politics: Socialism, Nationalism, and the Russian Jews, 1862-1917, Cambridge: Cambridge UP, 1981.
紹介が遅れましたが、ロシア帝国ユダヤ史、とりわけシオニズムを中心としたユダヤ・ナショナリズムに関する古典であり最重要文献です。小さい字で700頁近くあり、様々な論点を含んでいます。主なものは、初期のシオニズム、ブンド、社会主義シオニズム、シオニストのパレスチナ移民の革命のエートス、といったものです。貫くテーマは、副題にもあるように、ロシア帝国出身のユダヤ人における社会主義とナショナリズムの問題です。社会主義の価値を重要なものと考えつつも、ユダヤ・ナショナリズムを捨てることができず、相互をどう折り合いをつけていくかに関する思考の歴史が記述されていると言えるでしょう。今日まで続くシオニズム史で長く覇権を握ってきた労働シオニズムの源泉を考える上で、本書は最初に読まれるべき文献と言えるでしょう。
10. Jehuda Reinharz, Fatherland or Promised Land: The Dilemma of the German Jew, 1893-1914, Ann Arbor: The Univ. of Michigan Press, 1975.
世紀転換期のドイツ・ユダヤ政治史についてはこちらが古典的です。ドイツ・シオニズムと、それに対抗する形となった、以前からのドイツの枠組みでユダヤ人の統合を目指す動きのせめぎ合いが描かれています。
11. Stephen M. Poppel, Zionism in Germany, 1897-1933: The Shaping of a Jewish Identity, Philadelphia: The Jewish Publication Society of America, 1977.
ドイツ・シオニズムに関してはこちらも参照。ドイツ・シオニズムに限定された英語の研究書としては現在のところ以上の2つのみです。
12. Jehuda Reinharz and Anita Shapira (eds), Essential Papers on Zionism, London: Cassell, 1996.
紹介し忘れていましたが、シオニズムに関する主要論文を1冊にまとめた便利な論文集です(収録するにあたってヘブライ語から訳されたものもあります)。計857頁とボリューム満点で、内容は多岐にわたりますが48年前までに限られ、30年代ぐらいまでのものが中心です。それぞれのテーマに関する第一人者が書いている論文ばかりで、まずは参照すべき先行研究ということになります。
13. יוסף גולדשטיין, בין ציונות מדינית לציונות מעשית: התנועה הציונית ברוסיה בראשיתה, ירושלים: מאגנס, 1991.
ヘルツル時代のロシア帝国系シオニズムを扱ったほぼ唯一の研究書です。さまざまな潮流のシオニズムに目を配っていますが、とりわけ、ヘルツルら西欧系とのイデオロギー的な緊張関係や、ロシア帝国内での活動(いわゆるGegenwartsarbeit)が取り上げられています。
14. יצחק מאור, התנועה הציונית ברוסיה, ירושלים: הוצאת ספרים ע"ש י"ל מאגנס האןניברסיטה העברית
ロシア・シオニズムの初めからソ連時代初期までの通史です。参考文献が掲げられている程度で脚注がないので十全な研究書とはいえませんが、それでもかなり詳細にロシア帝国内部のシオニズムの諸相をしることができます。ちなみに、若干簡略化したロシア語版がウェブで読めますhttp://jhistory.nfurman.com/zion/maor.htm。
15. Ziva Galili, "The Soviet Experience of Zionism: Importing Soviet Political Culture to Palestine,"The Journal of Israeli History, 24(1), 1-33, 2005.
1917年から 1920年代半ばまでのソ連でのシオニズムの動きと、ソ連を追われてパレスチナにやってきたシオニストのパレスチナでの展開についての興味深い論考です。ソ連では1924年にシオニズムは弾圧の方向が決定的なものになりましたが、それまでは、弾圧や逮捕などは散発的にあったものの、意外と活動がある程度公的なところでもできていました。なかでも社会主義系のものは、ユダヤ人の農民化を奨励し、労働者の社会主義国をパレスチナに創設するという点で、ボリシェヴィキの思想やユダヤ人政策に通じるものがあったためです(ボリシェヴィキも一枚岩ではなく、イェフセクツィアという、ブンド上がりも多いユダヤ人部門もあったりとせめぎ合いもあったわけですが)。シオニストの側でも、ボリシェヴィキ体制と擦り合わせる努力をしていた側面もあったようです(1920年代になると非社会主義系のシオニズムはほとんど国外に出て行ってしまっており、社会主義系がほとんどになります)。それでも若者に支持を広げるシオニズムへの警戒があり、おそらくボリシェヴィキ体制が盤石化していくのと連動しているのでしょうが、ソ連においてシオニズムは地下で細々と続ける以外に道はなくなりました。いずれにしても、こうしてソヴィエトの知識を身に付けた彼らのパレスチナでの行動は、ある部分ではソヴィエト的で、ある部分では別の要素が入っていたり、それに懐疑的だったりしたようです。ちなみに、著者の両親がまさに、この流れに位置していた(二人ともハショメル・ハツァイルという青年社会主義シオニスト組織)ので、彼女の家族史でもあることが結論部で明かされていて興味深いです。
16. David Engel, "Citizenship in the conceptual world of Polish Zionists,"Journal of Israeli History, 27(2), 2008.
同じく、シオニズムの世界観が作られた場の1つとして重要なポーランドと、今日のイスラエルでの市民権概念との連関を見るという視野のもとで、戦間期のポーランドのシオニストの言論を分析した論考です。そこでは、シオニストは、ポーランド国内における民族自治として市民権を主張していました。その後のイスラエルにおける展開と若干意味合いは異なったりしているものの、その名残は今でも見ることができるでしょう。
17. דוד אנגל, "המסר הכפול: הציונות הכללית בפולין לנוכח מדינת הלאום", עלגד, 20, 2006.
上と同著者による、ポーランドの「一般シオニズム」に関する20年代までの概念・思想史です。ロシア帝国が崩壊し、ロシア帝国で用いていた戦略・思想を持ち込んだ側面があった一方で、政治社会構造がロシア帝国と異なった新生ポーランドでは、それは矛盾をきたすことが多く、結局それがゆえにより極端な派(修正主義やヘハルーツ)に流れを持って行かれ廃れていった、というお話です。政治社会構造の違いとは、ロシアにおいては、エスニック・ロシア人とは異なるロシア国民(帝国臣民)といった理念を掲げることがそれなりにリアリティを持っていたのに対して、ポーランドでは、ポーランド国民とエスニック・ポーランド人が同義であり、一般シオニストは、一方でポーランドを多民族国家として、ユダヤ人もその一翼を担う存在として訴えつつも、それは同化傾向の強かったユダヤ人をシオニズムに引き付けるための戦略としてしかシオニスト自身の中でも意味を持たなくなっており、破綻していったということのようです。しかしいずれにしても、こうした経験がその後のイスラエルの政治社会構造にかなり影響しただろうということがよく分かります。
18. Dimitry Shumsky, "On Ethno-Centrism and Its Limits: Czecho-German Jewry in Fin-de-Siecle Prague and the Origins of Zionist Bi-Nationalism," Simon Dubnow Institute Yearbook, 5, 2006.
これも、シオニズム思想生成の場とパレスチナでの展開を関連付けた論文です。バイナショナリズムの歴史を考える上で必須文献になっていくのではないかと思います。一方でチェコ・ドイツ・ユダヤ人の置かれた環境を、これまでの安易な図式を超えて見ようとしているのですが、それゆえこそのバイナショナリズムの特性を描き出すことにある程度成功しています。ここの「ユダヤ史」の項目の20の文献(Kenneth Moss)とある意味通じる(といってもかなり抽象的なレベルでですが)のですが、ドイツとチェコの二つの民族および文化に挟まれた中で出たH・バーグマンなどの論者は、ドイツ文化とチェコ文化を吸収する中でユダヤ文化が豊かになったと考え、同じ考え方で、パレスチナにおいてもアラブ文化に開かれることがユダヤ文化を発展させる道であって、アラブを無視するのはけしからん、という論理展開に至ったようです。 言ってみれば、民族と文化を概念的に切り離した、「多文化主義的ナショナリズム」とでもいいうるものだったわけです。つまりは、今日の一国家二民族解決案とは発想が根本的にことなっているわけですが、この時代が持っていたある種の想像力というのはおさえておく必要があります。
19. Michael Beizer, "Zionist Youth Movements in Post-October Petrograd-Leningrad," Jews in Eastern Europe, 2(33).
10月革命以降、シオニズムは(準)非合法化されていき、中堅どころは国外に退避してしまいましたが、代わりに、逮捕も恐れないユダヤ青年のシオニズム運動が湧きおこりました。ペテルブルクのそうした運動組織(有名な中心人物でいえばトランペドラーなど)に関してはこの論文が詳しいです。シオニズム活動により逮捕された者は、流刑の代わりにパレスチナに国外退去処分となることが多かったようですが、ソ連当局は、むしろそれはシオニズム運動を活性化させてしまう(それによって逮捕されたらパレスチナに行けるので)ということで、そのオプションはなくなっていったようです。
20. זיוה גלילי, ציונות רוסיה הסובייטית 1917-1939, בתוך אלון גל (העורך), הציונות לאזוריה היבטים גאו-תרבותיים, פרק ראשרון: אירופה המזרחית והמרכזית, ירושלים: מרכז זלמן שזר לתולדול ישראל, עמ' 91-133.
シオニズムの地域性についての論集に収録された、ソ連時代初期のシオニズムに関する通史です。Ziva Galili氏による論文は14でも紹介したように英語でもいくつかありますが、当該時期のソ連におけるシオニズム運動に関してはこれが一番詳しいです。 18の文献でも示されているように、若者が中心となったソ連時代のシオニズムにおいては、理念的な運動ではなく、パレスチナにおいて入植活動をすることが第一に掲げられ、そのための準備や教育に労力が費やされていました。
◆シオニズムのアラブ人(パレスチナ人)観・政策に関するもの
1. Yosef Gorny, Zionism and the Arabs, 1882-1948: A Study of Ideology, New York: Oxford Univ. Press, 1987.
シオニズムの様々な潮流の「アラブ問題」観を分析したほぼ唯一の研究書です。
2. Neville Mandel, The Arabs and Zionism before World War I, Lonond: Berkeley, 1976.
シオニズムの対アラブ関係に関する古典です。シオニズムの中でアラブ人の存在が大きな問題として扱われるようになるのは1920年の衝突からですが、その伏線として、当然本書が扱う時期も重要です。まだパレスチナにおけるユダヤ移民の数が大した数ではなかったこと(数万から十数万程度です)パレスチナがオスマン帝国の支配下にあったことなど、例えばイスラエル独立の48年とは様々な条件が異なっているということにも注意しなければなりません。
3. Neil Caplan, Palestine Jewry and the Arab Question 1917-1925, London: Frank Cass, 1978.
シオニズムの対アラブ政策に大きく影響した第1の1920年のアラブ暴動周辺の、シオニズムにおける「アラブ問題」についてはこちらを参照。
4. Almog Shmuel (ed.), Zionism and the Arabs: Essays, Jerusalem: The Historical Society of Israel and the Zalman Shazar Center, 1983.
シオニズムの対アラブ関係に関する論文集です。
5. Abigail Jacobson, "Sephardim, Ashkenazim and the 'Arab Question' in pre-First World War Palestine: A Reading of Three Zionist Newspapers," Middle Eastern Studies, 39(2), 2003, 105-130.
この時点では実質的に中東系(オスマン帝国(旧)支配地域系)ユダヤ人を意味するセファルディームとヨーロッパ、とりわけ東欧系のアシュケナジームのシオニスト機関紙における「アラブ問題」観を提示したものです。例えば、久しくアラブ人(というか、とセファルディームは実質的にはユダヤ教徒のアラブ人ということになるわけですが)と接してきたセファルディーム系のシオニスト紙ではやはりアラブ人(ムスリムおよびキリスト教徒の)との協調を訴える傾向にあったようです。
ロ)パレスチナ/アラブ人に関するもの
1. 藤田進『蘇るパレスチナ―語りはじめた難民たちの証言』東京大学出版会,1989年.
シオニズムがパレスチナの地で活性化する以前のアラブ人とユダヤ人の平和な関係が,外からのシオニズムに壊されていく様子が描かれています。ここの紛争は,政治学的な視点で,さらには国際政治学的な視点で見られることが多い中で,社会学的な視点で見ていく重要性が実感できると思います(本書や本著者は社会学のバックグランドはありませんが)。ウェブサイト管理者の卒論の指導教官なのですが、今でもそのような視座というのは大切にしていますし、社会学をディシプリンとして選んだのもそれゆえです。
2. Rashid Khalidi, Palestinian Identity: The Construction of a Modern National Consciousness, New York: Columbia UP, 1998.
「パレスチナ人」というナショナル・アイデンティティの歴史については本書が本格的な研究書です。これも基本的にはイスラエル建国以前までの話です。いわゆるアラブ人の中ではおそらくパレスチナ人(パレスチナ・アラブ人)だけがかなり明確なナショナル・アイデンティティを持った特異な人々なわけですが,それがどのように形成されたかをアラビア語新聞などを手がかりに追っています。本書が明かしているのは、パレスチナ・アイデンティティが一般に思われているよりも、部分的にしろ、やや早くからあった(20世紀初頭前後から)こと、必ずしもシオニズムに対する反応に限らないということです。
3. Samih K. Farsoun with Christina E. Zacharia, Palestine and the Palestinians: A Social and Political History (2nd edn.), Boulder: Westview Press, 2006.
政治史、社会史、経済史と様々な側面に光を当てた、詳細なパレスチナ(人)通史です。図表も比較的多く、ハンドブック的にも使えます。
4. Zachary Lockman, “Arab Workers and Arab Natinalism in Palestine: A Veiw from Below” in James Jankowski and Israel Gershoni (eds.), Rethinking Nationalism in the Arab Middle East, New York: Columbia UP, 1997.
シオニズムにおける「労働の征服」(=労働市場のユダヤ化)によって職を失い、ハイファに流入したアラブ人が反シオニズム蜂起を起こすに至る経緯について書かれています。パレスチナという枠での政治運動やイデオロギーがまだ明確化・洗練されていなかった時期においては、こうした日々の生活への不満というのも、反シオニズムの所在を見る上で重要です。
5. 臼杵陽,「パレスチナ・アラブ民族運動―1930 年代のハーッジ・アミーンおよびその他の政治グループの政治的役割―」伊能武次編『アラブ世界の政治力学』アジア経済研究所,1985.
パレスチナナ・ナショナリズムが本格化していった30年代に象徴的役割を果たした人物を中心とした政治運動史です。日本ではアラビア語資料を用いたこうした研究が少ない中で、日本語で読める貴重な文献と言えるでしょう。この論文でも、4.の論文で明かされているように、労働市場から排除されていった労働者の不満という側面が重要であることが示唆されています。
6. Rosemary Sayigh, Palestinians: From Peasants to Revolutionaries, with an Introduction by Noam Chomsky, London: Zed Booksm 1979.
在野の研究者・フリージャーナリストである著者による、1975年から1978年にかけて、レバノンの難民キャンプの元農民のパレスチナ人へのインタヴューに基づくオーラル・ヒストリーです。この種の研究でこの時期に関するものでは、おそらく本書を除いてほとんどないと思います。1の本でも引用されているように、パレスチナ研究には欠かせない一冊です。
ハ)現代イスラエル・シオニズムに関するもの
1. 臼杵陽『見えざるユダヤ人―イスラエルの〈東洋〉』平凡社,1998年.
現在のイスラエルの人口の半分が北アフリカを含む中東出身のユダヤ人です。彼らが,アシュケナジーム(ヨーロッパ系ユダヤ人,とりわけ中東欧系)が主導するイスラエル社会においてどのように位置づけられているのかに焦点を当てた研究(論文集)です。安易に西洋対東洋という図式に矮小化されがちなここの紛争がより複雑に入り組んでいることが分かると思います。ただ、本書は概して言えば「西洋/東洋」という二分法の境目をイスラエル内部において修正したということであり、この二分法そのものは特に問題としていません。「西洋」は基本的に一枚岩のままですし、そこから照射された「東洋」もそのネガという向きが強いです。しかし、本当にシオニズムは「ヨーロッパ」発なのか。ここは主な論点に関して、基礎的な議論は出そろった現在、次のステップとして重要です。
2. 奥山眞知『イスラエルの政治文化とシチズンシップ』東信堂,2002年.
現代イスラエル社会のエスニシティに関する分断を中心にイスラエルの政治社会を分析したものです。日本語でほぼ唯一の現代イスラエル社会に関する研究書です。
3. Clive Jones und Emma C. Murphy, Israel: Challenges to Identity, Democracy and the State, London: Routledge, 2002
同様に,イスラエルの公式のアイデンティティと政治社会との関係をエスニシティや対アラブおよび国際関係から分析したものです。一応研究書ですが,薄くて内容が一般的で平易なので,入門的な概説書としても読めます。
4. 臼杵陽「犠牲者としてのユダヤ人/パレスチナ人を超えて―ホロコースト,イスラエル,そしてパレスチナ人―」『思想』第907号,2000年
1990年代からイスラエルを中心としたシオニズム・イスラエル研究界に見られるようになった,シオニズムを相対化して別の視点から見る研究動向,いわゆる「ポスト・シオニズム」を著者なりの視点から概観した論考です。従来のシオニズムがパレスチナ人をいかに捉え,新たな動向がそれをどう変えようとしているのか,といった観点を得ることができます。
5. Laurence J Silberstein, The Postzionism Debates: Knowledge and Power in Israeli Culture, New York: Routledge, 1999.
そのポスト・シオニズムに属する研究に関してより詳細に追っているものとしてはこちらがあります。
6. Robert O. Freedman (ed.), Contemporary Israel: Domestic Politics, Foreign Policy, and Security Challenges, Boulder: Westview Press, 2009.
現代イスラエルに関して概説した論文集というのは意外と少ないのですが、これはその最新版です。扱われているのは、イスラエルの右派、左派、宗教政党、ロシア系を中心とした政党、アラブ政党、最高裁判所、経済、イスラエルとパレスチナ人、アラブ世界との関係、トルコとインドとの戦略的関係、イスラエルと米国、イスラエルに対する外的脅威、2006年のヒズボラとの戦争といったテーマです。その「イスラエルとパレスチナ人」の章は、90年代の和平交渉の失敗の原因を完全にパレスチナ人の側に求めている点で、少なくとも日本のどの論調ともかなり異なっており、それはそれで興味深いですが、少なくとも言えることは、この著者(Barry Rubin)のものの見方はだいぶ単純だということです。ただ、そうした思考はイスラエル/パレスチナをめぐって例外的なものではない(別の結論に至るものも含めて)ので、それがどのような基盤に立っているのかを見極める上ではこうした論考もしっかり読んでおく必要があるでしょう。
7. Jerold S. Auerback, "Jewish Sovereignty" (Review Essay), Society, 46(1), 2008.
この論文は、Ruth Wisse, Jews and Power (2007)とKenneth Levin, The Oslo Syndrome (2005) の書評論文です。前者は、ユダヤ人がイスラエル建国以前において、周囲と妥協していくことを生きる術としてきたが、それがイスラエル建国後も習慣として続いている(つまり、アラブ国家やテロリストに妥協することで安全を保障しようとしている)と指摘し、後者も、そうした妥協の姿勢を咎める本のようです。この論文の著者は、あるいはこれらの著者よりもさらに強硬派のようで、これまでのイスラエル、とりわけその左派(ポストシオニスト含む)を、敵の見解を採用し、不合理なものを合理化しようとしていると糾弾しています。2段組み3ページ強でこのような議論を、きわめて明快に示しており、ある意味便利です。これは、とりわけシオニスト右派(おそらく労働シオニズム系も少なからずそうですが)の歴史観(ユダヤ史観)の根底にある問題意識なのだと思います。シオニズムやイスラエルの政策を批判する場合、イスラエル政府に直接働きかけるという手もありますが、研究者としては、こうした論者に直接、論理と事実でもって議論を挑んでいかなければならない(それができるのは研究者しかいません)ですし、この手の論者は、アメリカとイスラエルを中心に、それだけで仕事が手いっぱいになるほどたくさんいるように思われます。
8. Larissa Remennick, "Language Acquisition, Ethnicity and Social Integration among Former Soviet Immigrants of the 1990s in Israel," Ethnic and Racial Studies, 27(3), 2004.
現在ではイスラエルの人口の2割を形成している旧ソ連系移民についての社会学的研究です。彼らの移民のピークがソ連が崩壊した直後の1990年代でした。現在のイスラエルでもロシア語がちらほら聞かれますし、とりわけアシュケロンやアシュドッドなど南部では数割が旧ソ連系であるため、その傾向が強いように、イスラエルの1 つのエスニシティを彼らが形成しています。文化に対する態度で見ると、彼らはヨーロッパ文化の一部としてのロシア文化に誇りを持っている一方で、「中東」文化であるイスラエル文化は、少なくとも羨望の対象ではないことが多い一方で、アメリカに移民した旧ソ連系では、アメリカ文化の方が優れていると感じている、という研究があるそうです。
9. Uri Ram, "Why Secularism Fails? Secular Nationalism and Religious Revivalism in Israel,"International Journal of Politics, Culture and Society, 21(1-4), 2008.
もう一つの近年重要度が増している現象として、なぜ現在のイスラエルにおいて宗教勢力が強くなっているのかという問題があります。著者によると、初めに世俗主義的だった東欧シオニズムが、後にヨーロッパからの難民や中東系ユダヤ人を吸収して変化した、ということではなく、むしろ、始めからエスニックな境界を世俗的なシオニズムも前提としていたために、世俗的な定義を予め排除してしまったことにそもそもの発端があるとのことです。比較的オーソドックスな議論ですが、世俗シオニズムと宗教シオニズムや、今日での宗教派(ハレディームや原理主義的な宗教シオニスト)のイスラエルでの存在感の増大を考える上で外せない視点でしょう。
10. Dvora Hacohen, "Mass Immigration and the Demographic Revolution in Israel," Israel Affairs, 8(1&2), 2002.
イスラエルは様々なタイプのユダヤ移民を帰還法でもって吸収してきましたが、それについての、社会的・政治的インパクトを含めた概説です。ある程度無難にまとめていて、山場は特にないですが、基礎事項の確認になります。
11. Yoav Peled and Gershon Shafir, "The Roots of Peacemaking: The Dynamics of Citizenship in Israel, 1948-93," International Journal of Middle East Studies, 28(3), 1996, 391-413.
イスラエルの市民権(およびそれを持たない西岸・ガザのパレスチナ人)の諸問題と、和平との関係について概観した論文です。イスラエル社会におけるエリートの性質・層の変容(労働シオニズム系から、グローバルな市場に順応した層)の関連もあり、単なるイスラエル・アラブ関係に限られない、いろいろなダイナミクスの中に市民権の問題もあることがわかります。ただ、オスロ合意の余韻のある時期だからか、そうしたエリート層の変容の和平への好意的影響といった、やや楽観的な見通しも論じられています。
12. Moshe Berent, "The Ethnic Democracy Debate: How Unique is Israel ?" Nations and Nationalism, 16(4), 657-674, 2010.
イスラエルの政治体制をどのように形容するかを巡って議論がありますが、1つの試金石となっているのが、Sammy Smoohaが1990年に提唱した「エスニック・デモクラシー」という概念で、エストニアやラトヴィア、スロヴァキアと同等の体制とされます。それは、一方でリベラル・デモクラシー(米国など)、コンソーシエーショナル・デモクラシー(ベルギーなど)と区別され、また他方で1つの支配集団以外市民権を基本的に持たないヘレンフォルク・デモクラシー(アパルトヘイトの南アなど)と区別されています。こうした形容は、一面で現状をうまくとらえている一方で、いくつかの批判もあります。この論文の著者は、とりわけ、エストニアなどが、より領域的な市民概念を基本法において内包しており、将来におけるリベラル・デモクラシーへのステップアップを、少なくとも目標として想定しえているのに対して、イスラエルの「ユダヤ的かつ民主的」という形容詞付きの民主主義が、将来においてもエスニックであり続けるという点で相違を指摘し、他の批判者に同調しています。
13. Sammy Smooha, “Ethnic Democracy: Israel as an Archetype,” Israel Studies, 2(2), 1997: 198–241.
12で出てきたSammy Smoohaの「エスニック・デモクラシー」論です。彼がとりわけ注意を呼び掛けているのが、一民族独裁であるHerrenvolk democracy(アパルトヘイト下の南アなど)との区別と、エスニック・デモクラシーの枠内での現在の諸問題の改善という点です。法的な側面に限るということと、占領地を含まないという2点の限定を付ければ、彼の定義は概ね当たっているともいえますし、その線でいろいろと考えてみる利点もあるように思います。ただ、やはり、西岸・ガザを実質的に、そしてとりわけ根本的なところで支配しているのは、そこの住民ではなく、イスラエル国家であることを考えると、イスラエルを語る際、イスラエルへの選挙権のないそれらの地域も勘案する必要がある場合も多いでしょう(彼が比較しているエストニアやスロヴァキアには国家外のそのような実質的支配領域はないわけです)。もっとも、それは一定程度まで、広義での戦争状態という特殊な状況の産物でもあり、原則論とは少し違うことであると論じることもできるのかもしれません。いずれにしても、彼の議論がイスラエルの政治体制に関する議論の一つの踏み台になってきたことは確かですし、いろいろな論点をその基準で整理しているところなど、どのような立場をとるにせよ読んで損はないでしょう。
ニ)紛争に関するもの
1. Charles D. Smith, Palestine and the Arab-Israeli Conflict: A History with Document, 7th edn., Boston: Bedford/St. Martin’s, 2010.
入門の1.よりもさらに詳細にここの紛争を概説したものです(小さめの字で500ページ以上)。章末に有名な文書の英訳を収録しており、このテーマの概説書としては最も優れたものといえそうです。章末に挙げられている問題は最初に見ておいた方が理解を助けるかもしれません。ただ、基本的には政治史ですが、イスラエル建国後は、たぶんに政治的駆け引きの関数として国境の変動やアクターの生成、分離、統合が行われているといっても大きくは外れていないようにも見えます。
2. エドワード・サイード『パレスチナ問題』みすず書房,2004年(原著1979年)
オリエンタリズム論で有名なパレスチナ・アラブ人であるサイードのパレスチナに関する主著です。西洋対東洋という図式に乗りすぎともいえ、また、シオニズムのナショナリズムとしての側面とそれによる問題がほとんど無視されている問題もありますが、シオニズムがパレスチナ・アラブ人に対して孕んでいるもう1つの重要な問題である近代主義ないしはオリエンタリズムの問題が鋭く指摘されています。むやみやたらと小難しく書いている点は社会科学者としてはあまり賛同できませんが,いわゆる文化人にここの問題に振り向かせるという意味では,貢献しているのかもしれません。
3. Norman G. Finkelstein, Image and Reality of the Israel-Palestine Conflict, second edn., London: Verso
反シオニスト,さらには一部からは反ユダヤ主義者と呼ばれ(悪)名高い米国のユダヤ人論客によるシオニズムやイスラエル政府の政策を批判的に分析した論集です。実際,全体として少なからずバランスを欠いていることは確かですが,無根拠ないちゃもんというたちの悪いものとは完全に一線を引いており,丁寧に議論が組み立てられています。また,バランスの悪さを差し引いても重要な論点が提示されており,勉強にもなります。全て著名な本の書評論文という形を取っており,例えば第1 章は上記7.を中心に取り上げ,著者独自の分析を加えています(第1章はそうでもないですが,章によっては取り上げた本に対して手厳しく批判を加えています)。なので,研究書というわけでもなく,ちょっと特異な本です。なお,本サイトの管理者は現在この本の翻訳チームに加わって目下翻訳作業中です。 2007年冬の出版を目指しています。
4. Robert I. Rotberg (ed.), Israeli and Palestinian Narratives of Conflict: History's Double Helix, Bloomington: Indiana UP, 2006.
イスラエル・ユダヤ人(シオニスト)とパレスチナ人それぞれの歴史物語(ナラティヴ)に関するものです。それぞれがどのような内容のものであるか、どのように生成してきたのか、どのように橋渡し(bridge)可能なのか、といったことについて、どちらかに基盤を持つ研究者11人が冷静に分析したものです。
5. Paul Scham, Walid Salem, and Benjamin Pogrund (eds), Shared Histories: A Palestinian-Israeli Dialogue, Walnut Creek: Left Coast Press, 2005.
4.同様に、シオニストとパレスチナ人双方の歴史物語を、どちらかがどちらかを抑圧することがないように気を使いながら記述したものです。研究者やジャーナリストに限られますが、それぞれにおいて中堅どころの人々が、歩み寄るよりもまずはそれぞれがどこで対立しているのかを付き合わせることを目的に、率直にそれぞれの歴史認識を語ったものです。時期に区切ってそれぞれを代表して2人が歴史認識をまず提示し、それについて双方入り混じって議論をするという形式になっています。この紛争に関する議論は、えてして仮想敵を設定しつつどちらか一方が、文字通り一方的に論じるということが多く(傍から見ていると、ほとんど陰口にしか見えないこともたまにあります)、基本的なところで認識が一致しない人々が議論しあうということが少ないように思いますが(実際、それをやると議論の収拾がつかなくなることがほとんどでしょう)、本書に記録されているのはその数少ない試みです。そこでの議論を見ると、基本的な用語の定義で揉めるといったことも見ら、何か建設的な結論が導き出されることはあまりないのですが、いずれにしても双方とも何で対立しているのかを知ろうという姿勢は一応一貫しています。したがって、4.のように、どうすれば橋渡しできるかといったことはほとんど論じられていません。実は、本書の基本的な方向性は、対立する歴史観をそれぞれ等価のものとして共有しようというもので、本書でもって何か建設的な結論を出そうということははじめからほとんど目指されていません。むろん、このように両者を単純に並べてしまうこと自体、議論の余地は少なからずあります。例えば、標準的なパレスチナ人の歴史物語からしたら、そもそもシオニストは侵略者なので、こうした並列は、犯罪者と被害者をどちらも尊重しようといっているのと同じ議論だということになるわけです。ただ、それでも、一般的な裁判というものを例にとると、そこでは犯罪者(弁護士)も検察も等価のものとして扱われ、そのこと自体は、単なる方法であって、価値付けに関するものではないということを考えると、必ずしもこうした論じ方がすなわち何か言外の意味を持ってしまっている、ということにはならないとも言えます。どの道、両者が何で対立しているのかを知ることはお互いにとって、次のステップに進む上で重要なことで、方法として、本書の形式はそうした役割を果たしているともいえるでしょう。ただ、残念ながら、本書の反響は、タワシが知る限りは、これまでのところあまりないようです。