Taro
Tsurumi
英語論文を通すためのTips
歴史社会学・地域研究を中心とした学際分野を念頭に置いて、研究を国際的に展開するための一歩を考えます。2023.12.31更新
<もくじ>
どこに投稿するか
どこに投稿するか
<分野>
英語圏には無数に雑誌があります。例えばロシア・ユダヤ史のなかのナショナリズムを主題とした論文だと、ロシア研究を中心としたSlavic ReviewやRussian Review、Slavonic and East European Reviewなど、ユダヤ史を中心としたJewish Social StudiesやJournal of Modern Jewish Studies、East European Jewish Affairsなど、また、ナショナリズムに関して歴史の論文も扱うNations and Nationalismや旧ソ連・東欧地域に関する論文が中心のNationalities Papersなどが候補になります。Ethnic and Racial Studiesは現代に関するものが多いのでややズレがあるかもしれません。ほかに、歴史社会学系のJournal of Historical SociologyとかTheory and Societyなどもありえます。
決め手としては、まず自分との相性を考えます。自分がよく読む論文が載っている雑誌、自分と論じ方や関心が近い論文が多い雑誌、という観点で選びます。次に、投稿予定の論文の主軸が何かで決めます。例えば、「ロシア史の観点からユダヤ史を明かす」という方向なら、ユダヤ史の雑誌がよいですし、「ユダヤ史を事例にロシア史の一側面を明らかにする」ということであれば、ロシア史のほうがよいでしょう。事例全体として、ナショナリズムとして特異な点があるのであれば、ナショナリズム関連の雑誌も有力になります。
<難易度>
日本の学会誌(紀要に準じるものは別です)は、院生やポスドクが主要な投稿者です。一方、アメリカやイギリスの大学院では、まず先に博士論文を書き上げることを優先するので、英語の雑誌は、ポスドクか常勤研究者が主体になります。そのぶん、一流誌であれば水準は若干上がりますし、常勤研究者でもなかなか載せられないような超一流誌もあります。
もっとも、査読者2名(3名などのこともあります)がいずれも多かれ少なかれ掲載を薦めるかどうかが肝心な点は、日本の査読誌と同じで、査読者次第といえます。分野にもよりますが、日本の査読者のほうが基準が低いということは必ずしもないので、その意味で、雑誌を選べば、英語誌のほうが格段に大変ということはありません。
そのほか、トップジャーナルと呼ばれる雑誌では、査読者がある程度好意的でも、掲載数の限度があるために、編集委員会も含めて特に強く推す論文しか掲載されない傾向にあります。例えば、American Sociological Reviewなどの社会学のトップジャーナルは、掲載率は20本に1本と聞いたことがあり、有名な一流教授が落とされた例も聞きました。また、年に4回しか出していなかった頃のEthnic and Racial Studiesは7本に1本と聞きました。Jewish Social Studiesも、ちょっと記憶が曖昧ですが、1割ぐらいだったと思います。
どうしてもすぐに英語雑誌に載せたいということであれば、ランクが落ちるところをはじめから狙うことになります。E-journalになっていれば、アクセスしてもらいやすいのが昨今ですので、必ずしも雑誌の名前にこだわる必要はないという考え方もありえます。ランクについては、よく誌名を見るかどうかということや、インパクトファクターやそこに添えられている同分野内での順位、どのぐらい歴史があるかなどである程度わかります。歴史分野は引用頻度が低いため、インパクトファクターは超有名誌でも低く出る傾向にあります。
ある程度時間的猶予があるのであれば、まずはトップから投稿して、落とされたら、論じ方を変えて少し違うところに投稿するか、ランクを下げる、という手順にするのがよいです。落とされたら「次行ってみよ~」が基本ですので、投稿した瞬間から落とされる前提で次のことを考えておくと精神衛生上よいです。
雑誌によっては投稿から最初の決定までに平均どのぐらいかかるか書いてありますし、聞けば教えてもらえます。相場は3-4か月です。多くの雑誌がウェブシステムでやっているので、投稿後のステータスが表示されます。なかなか前に進まないということがあれば、忘れらている可能性もなくはないので、つついてみるとよいです。査読者がもたついている場合は仕方ないことが多いですが、査読に回す前に忘れているということはありえます(私はありました)。
<ハゲタカジャーナルに注意>
国際学会で発表すると、しばらくしてから、聞いたことのない雑誌から、あなたの学会発表に大変興味があるからぜひ投稿しないかという旨のメールが来ることがあります。それらはすべてハゲタカジャーナルだと思ってください。つまり、査読がある体を見せながら、簡単に通し、そのかわり高額な掲載料を取るという雑誌です。ろくな査読を経ていないので、掲載されている論文の質も平均的には高くなく、それらと並ぶのは損だと思います。近年では、オープンアクセスにするためには、有名誌でも数十万円ぐらいを支払う必要がありますが、オープンアクセスにしないオプションはあります(一部投稿料を若干取るところはあります)。研究者は投稿は誘われてするのではなく、雑誌選びから一から自分でするものだと心得てください。
英語をどうするか
<英作文について>
英作文の指南書については、書いたのがもう10年以上前なのですが、本サイトのBook Reviewsページ(右上のMoreのところから)の語学のところを参照してください。日本語版と英語版がある学術書を使って、日本語版を自分で英語に訳して英語版を確認すると勉強になります。
現在では機械翻訳が発達していますので、基本的な日本語であれば、下手に自分で英語にするよりよい英語にしてくれるのではないかと思いますが、国際的に研究を展開していく場合は、やはり学会等で英語でコミュニケーションを取ることが重要になってきますし、慣れてしまえば、日本語を機械翻訳してさらに英語をチェックするより、初めから英語で書くほうが早いですし、そもそもそれだけの力がないと機械翻訳のミスやズレに気づけませんので、自分で書く力を涵養することをお勧めします。機械翻訳を作文練習の際のお手本にするなど、使いようはいくらでもありますね。
<業者の英文校閲>
中身がよければ言葉が少々ダメでも、とか、こっちは非ネイティヴで頑張ってるんだからネイティヴは配慮せよ、とか思ったりもするわけですが、現実には、英語がダメだとそれで落とされることは多々あります。文法ミスや標準的な用語を無視した独りよがりな言葉遣いが目立つと、やはり研究能力全般が疑われても仕方ありません。日本語の論文で考えればわかるように、ただでさえ込み入った議論をしている文章の日本語の主語と述語がズレていたり、聞き慣れない用語を使っていたりすると、それだけで内容が頭に入ってこなくなりますよね。査読は大抵は無償労働ですから、それは相当な負担です。
一般的には、ネットでよく出てくる業者(Editageとかenagoとか)を使う人が多いと思います。料金と納期が明白で科研での支払いが楽だったりするのもあり、私もよく使ってきました。もっとも、それでも英語に問題があると査読者に指摘されたことはあります。料金が2倍ぐらいするプレミアムコースのようなものもあり、それは確かに内容までしっかり踏み込んで校閲してくれるので、論文としての質も上がる感じはします。
ただ、プレミアムまでは使わなくても、それなりの英語にするための手はあります。ポイントは、文系の研究者であれば誰でもわかる表現を使う、ということに尽きます。上記業者は一応学術系を得意としますが、メインの顧客は理系ですので、文系に関して幅広い分野・領域をカバーする校閲者を用意しているわけではありません。たぶん、例えば英文学専攻の人がロシア文学の論文を校閲するぐらいのことは十分あると思います。日本語で書く場合でも、そのぐらい専門が違う人にわかるように書くにはかなり言い回しや構成を工夫する必要があります。英語で難しい言い回しをして恰好をつけることを考えるより、そういうところに労力を割くのが得策です。意味がわからない文章は、校閲者の英語力がどれだけ優れていてもよい英語にはできない、という当たり前の事実をよく理解しておきましょう。
<独立編集者(校閲者)>
社会科学寄りの論文であれば、明快であればそれでよいので、理系的な簡潔な英語でまったく問題ないと思います。しかし、人文学寄りになると、査読者の英語の要求も上がってくることがあります。私も以前、業者の校閲を受けた論文が、「英語が不格好clumsyである」という理由だけで落とされそうになったことがあります。上記プレミアムコースは高いので、別の方法を試すのも手です。それが、業者と独立してやっている編集者です。私もユダヤ史関連で何人か知っていますので、その分野に近い場合は紹介することができます。ウェブサイトを持っていたりします。
支払い方法はPaypalだったりして研究費で払うにはやや面倒ではありますが、分野が近く、細かく対応してもらいやすいのが利点です。業者が入らないので、実は料金も安くなります。ただ、そういうのがあるのを知ってからは、時間に追われることが多く、結局業者の校閲を使ってしまっていますが…。